2016年3月29日火曜日

【独自記事】KARATEはなぜメタルヘッズに刺さったのか?

分析: KARATEはなぜメタルヘッズに刺さったのか?

(3月29日9時22分 内容一部修正)

おそらくKARATEは洋楽的だと感じているリスナーが多いと思われる。現代的なメタルに近づいているから、それ故に西洋のメタルヘッズ達にもより受け入られているのだろうと。
しかし楽曲の構造を紐解いていくと、実はKARATEは非常に邦楽的だ。むしろここ数年のJ-POPの傾向以上に古風と言っていい。

その事を示す上でまずは現行ヒットチャートに上るダンスミュージックを礎とした洋楽ポップスと邦楽ポップスの構造差の分かりやすい一般例を二つあげたい。
以下、それぞれ洋楽、邦楽と略して表現させてもらう。

サビへの展開


邦楽においてはAメロでまず曲の雰囲気を形成し、Bメロでその空気に変化をつけ新たなドラマを見せる。起承転結の転の役割だ。
じっくりと盛り上げ、そしてサビで大きく花開かせるというのが邦楽の定番である。

英語ではAメロ、Bメロと区別せず、AメロにあたるものをVerseと呼ぶ。そしてBメロにあたるものをPre-chorus(サビ前)と呼ぶ。
洋楽においてのPre-chorusはその名が示すように、サビ前に多少の溜めを作るためのものとして置かれる事が多く、そもそもPre-chorusが置かれずVerseからChorus(サビ)へとそのまま流れるものが多い。
とにかく短いスパンで曲の空気を作り上げ、サビで変化させる事で印象付かせるのが洋楽の構造だ。

昨今の邦楽も洋楽的になりつつある。SEKAI NO OWARIの「Dragon Night」はAメロx2から直接サビへいく構成、ゲスの極み乙女の「私以外私じゃないの」もAメロx2からサビへと入る。

ギミチョコは「あたたたーた」の短いAメロから、そのままサビへとジャンプインする。これはダンスミュージックを基盤とした洋楽の構造である。
それに対して、KARATEはAメロ(セイヤソイヤ)、Bメロ(涙こぼれても〜)がそれぞれ8小節続いた後、1小節の溜めを経てサビへと入る。展開は早いが、従来型の邦楽に近い構造だ。

動かずループするメロディ


邦楽のサビには複雑なコード展開があり、メロディが上に下にと動きまわる。ドラマチックな感動を盛り立てる為にサビが機能する。Mr. Childrenやいきものがかりの楽曲を思い浮かべてもらうとわかりやすい。
それに対して、洋楽のサビとは印象に残る短い音節からなるメロディをサビ頭に使い、それを何度も続けて繰り返す事で印象付ける。そのメロディで使われる音階は少なく、単純な旋律をリズミカルに聴かせる事で印象付ける方式を採る事が多い。

あえて邦楽を例に挙げる。


このDOUBLE&安室奈美恵の「BLACK DIAMOND」は洋楽的に聴こえるはずだ。上記の特徴を見事に持っている。


対して三代目J Soul BrothersのR.Y.U.S.E.Iは、メロディはシンプルながらも「BLACK DIAMOND」と比較すれば遥かに邦楽的だ。A→B→サビという構造も守っている。そのため、トラックは本格派EDMながらJ-POPの感触が強い。

この洋楽的なサビの旋律を更に単純化し先鋭化させたのがK-POPであり、アメリカで一定の人気を得ている事も理論的にも納得がいくのだが — 話をBABYMETALに戻そう。

洋楽のサビのキャッチーさとは音の刻み方と、同じフレーズを何度も登場させる事の効果によるもの。これもまたギミチョコに共通する特徴だ。
対して、KARATEのサビは「セイヤソイヤ〜」と「全部全部〜」という同じメロディで「拳をもっと」「心をもっと」を間に挟むサンドイッチのような構造である。これは邦楽によく見られる構造だ。

KARATEは楽曲の構造、メロディの配置、どちらにおいても邦楽らしい邦楽なのだ。
ではなぜそれがメタルヘッズに刺さるのか?

結論


現代のメタルでグロウルやスクリームを使ったVerseからメロディアスなChorusへと展開するパターンが多く見られるのに対し、90年代以前のメタルは上記のような邦楽的構造を持つものが多かった。「今のメタルはどれも一緒に聴こえる。昔はそうじゃなかった。」と言われる所以はここにある。
KOBAMETALがKARATEのリフ作りで参考としたMetallicaのEnter Sandman、同時期のメタルヒット曲MEGADETHのSymphony of Destructionも同じ構造だ。
邦楽的な音楽の構造=旧来型のメタルの構造を蘇らせたのがKARATEである。

そう。BABYMETALはここでもまた日本の歌謡へのリスペクトを保ちながら、伝統的なメタルを現代に蘇らせるという手法を変わらず遂行しているのだ。
ジェント影響下にありながら個性的なリフ、現代的なビート感、EDM以降の水準に合うドラムサウンドを備えていながら、実のところ楽曲の構造は邦楽的であり、90年代メタル的でもある曲がKARATEである。

メタルヘッズの中にある潜在的な伝統的メタルへの飢餓感に訴え、そして現代のメタルの閉塞感を打破する楽曲構造がKARATEにあったからこそ、ジャーナリストや評論家の琴線に触れる楽曲となったのかもしれない。


23 件のコメント:

  1. 非常に解り易い解説、有り難う御座います。
    KARATEに付いて私的には、正直最初は余りインパクトは大きくなく、大丈夫かな?と感じていましたが(勿論今は大好きで何度もリピートしてます)、そうやって計算し尽くして作られた曲なんですね。納得です、浅薄な知識から要らぬ心配をしてしまい恥ずかしい次第です。

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  2. ある意味では西洋の失ったものを再提示したとも言えますが、
    ある意味ではそれこそが日本の歌謡曲の成功体験による「呪縛」とも言えます。

    日本の全盛期のスタジオの職業集団による楽曲制作は週に数百という数の
    新曲を作り出しアイデアは煮詰まるところまで煮詰まり、ネットも無かった
    時代で情報の行き来も少なかったことも幸いし、海外のレコードなどから
    貪る様にネタを拝借し利用しまくるという、今ではすぐに訴えられるレベルの
    ことを平気でやっていた中で、まさに「黄金律」と呼ばれるものを確立して
    いきました。例えば、「カノン進行」と言われるものや、サビのメロディーを
    さらに引き立てる為の分数コードや代替え修飾コードの羅列による複雑な
    コード進行などがそれです。
    そしてその「黄金律」を使えば、それこそ上物を取っ替え引っ替えするだけで、
    新曲が大量生産できるという、量をこなさなければならない制作側の職人集団
    にとっては夢のような代物が不動の地位に就きます。

    マーティ・フリードマンが日本の曲はノー・ルールだと言っていたのは、
    まさしく、この「黄金律」の骨組みさえあれば、あとは何をしようとも
    ちゃんと曲としてまとまるということを指していると思います。

    なので、この「黄金律」を「歌謡曲フィルター」と言い換えると
    そのフィルターを通れば、R&B であれ Hip-Hop であれ MTEAL であれ
    民族音楽さえも、歌謡曲テイストで仕上がります。

    しかしあまりにもドメスティックに進化し過ぎた故に障壁ともなり、
    「歌謡曲フィルター」をもっていない、海外の楽曲から直接引用をした
    ドメスティック性の希薄な Kpop の方が海外では直感的に反応しやすく
    海外進出で先を譲りました。

    もしもこの「歌謡曲フィルター」が海外で少しでも理解されたのなら、
    日本のエンタメが本当の意味で呪縛から解かれて正当に評価される時
    だと思います。

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  3. 洋楽の括りがあまりにも雑すぎませんか?海外ロックのジャンルでも
    もっと多様な表現をしてますよ。サビって認識自体が変化していっている
    現代においては。BMは90年代の懐かしい表現を懐古してると思います。
    懐かしがって楽しんでる気がしますね。邦楽的って?世界中の音楽を聞いてる
    人間にとって違和感を感じる評論でした。

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    1. かなり言葉足らずだったかもしれません。

      ここでの洋楽は現行のヒットチャート型の(主にダンスミュージックから発展した)欧米のポップスについて述べているつもりでした。あくまでもメジャーなものの傾向を平均化すると、という捉え方をしています。
      同類においてもカントリーを基盤にしたTalor Swiftの曲は構造がよりオーセンティックですし、チャート外の音楽もまた然りです。

      加筆修正するかもしれません。ご指摘ありがとうございます。

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    2. 最大公約のヒット作についてですね。平均化は分かりました。
      九さんとのお話しで分かりましたよ。音楽の関わり方が浅い方
      深い方色々いらっしゃいますね。また、読ませて頂きます。
      ご返信ありがとうございました。

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  4. KARATEは俺には刺さらなかった
    メロがなんかどこかで聴いたような
    古くさい歌謡曲っぽい

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    1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  5. >邦楽的な音楽の構造=旧来型のメタル

    この図式だとKARATEが海外で受け入れられたことと同時に、日本でメタルが受け入れられたことも説明出来るんですよね
    あくまでエッセンスや平均化した上での話だと思いますが、この共通性は非常に重要だと思いますね

    KARATEはなんとなく「公約数的な構造をしている曲」という印象があったのですが、この記事の説明でそう思った理由がより理解出来たような気がします

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  6. ジョン・ウェットンが演歌に聴こえる今日この頃です(笑)

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  7. 本を一冊書けるくらいのテーマなのだから、大雑把になるのはあたりまえで、むしろどの切り口を選ぶかでセンスが出るわけで、翻訳メタルさんの切り口を楽しませていただきました。
    そういう評論に細かいこと言うのは意地悪だと思いますよ。
    だったら自分独自の、新たな切り口で勝負すべきです。

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    1. フォローありがとうございます。
      ただこういった記事にツッコミが入ることは当然ですし、自分の表現も省略の仕方も上手くなかったからだと思います。

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    2. 私は読解力が無い(俯瞰で物事を見られない人)のように感じました。
      あんな事を言い出すんなら、一バンドだって年代で変化するんで何も書けなくなりますよね。

      >世界中の音楽を聞いてる
      って書いてますけど、海外の人の「J-Pop風だ、アニメの曲みたいだ」って言うようなコメントも良く見ますよね(YouTubeベビメタのコメント欄でも)
      それって海外の人は洋楽とは違う、日本(邦楽)的な何かを感じているって事ですよね。
      その事が「邦楽的?」って判らない(感じられない)のはどうかと思いますけどね。

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    3. メロディーの解釈、サビの解釈、音楽の表現の枠組みについて
      あまりにも雑すぎるから事実を言っただけの事。批判ではない。
      もっと具体的にどの切り口かの説明が必要だと思うよ。
      邦楽的って言葉が古典音楽から来るものか、日本人気質から来ている物か、昭和以降の雑食性ガラパゴスの事を言っているのかきみのようにアニメとかアイドルの曲の事を言っているか、人によって発想は違うんだよ。本と一緒だよ読む人間によって解釈や切り口が違うんだよ。特に君の意見は閉鎖的で日本人ぽいってことは理解できたことは
      収穫だったよ。

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  8. 納得です。安室ちゃんとエイベックスの一部グループがKPOP化するのも当然か。というか逆か。確か沖縄アクターズスクールの安室ちゃんの後輩が少女時代の振付師とかやってたような。というか一部のUSPopsがKPOP化してる感すらあります。

    「アニメ」を蔑称として使わない事が大前提になりますが、ベビメタとメタルの関係性って「聖闘士星矢」現象って言い方もあるような

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  9. 面白い記事有り難う御座います。楽しませてもらってます。

    僕は旧来型のメタルの構造を蘇らせたというものよりも単純にゆよゆっぺ氏が初音ミクで試していたアプローチ(邦楽的構造+スクリーモ、ニューメタ、メタルコア以降の要素)の延長線上にKARATEがあると思ってます。
    イントロブレイクダウン(スクリーモ、ニューメタ、メタルコア以降の要素)→A→B→サビ(邦楽的構造+ユイモアに一バース歌わせるベビメタ的構造含む)→ブレイクダウンと続く・・・。

    個人的に旧来型のメタルの構造に無いブレイクダウンというものが加わった事がかなり大きな変革だと感じてましてブレイクダウンはEDM的なドロップの役割に近いものでこれが入るだけで暴れられるし踊れる劇薬だと思ってます。

    歌謡曲ベースの構造にバウンス系のリズムのブレイクダウンが入るだけでまるで違う曲に変貌します。
    曲作り、展開におけるブレイクダウンは2010年代以降の見落としてはいけない最も重要な要素でコレ抜きでは構造は語れないぐらいに思ってます。

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    1. ありがとうございます。
      ブレイクダウンはメタルだけに限らず、多くの音楽にとって重要な要素ですね。
      最初のリフをブレイクダウンそのものと捉えるかどうかは解釈が分かれるところかもしれませんが、ブレイクダウンの発展とジェントの潮流によって生まれた現代的なグルーヴがKARATEのあのリフにある事は間違いないと自分も思います。

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    2. YAVAのブレイクダウンなんかもそうですけどリフでグルーブ出してチャグで落としたりする感じなんすよね。

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    3. イントロブレイクダウンってそんな造語つかって俺理論展開してどうすんのよ
      イントロとブレイクダウンって矛盾してるだろ
      解釈が分かれるなんて表現じゃ伝わってないと思う

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    4. 完全に俺理論、俺の解釈っすよ。自分の意見言わないでどうすんのよ?

      例えばクロスフェイスのモノリスはイントロブレイクダウンじゃないですかね。違いますか?
      モノリスは意図的にイントロで低音のブレイクダウン持ってきてサビ終わりにサークルモッシュ系のブレイクダウン、で最後にもう一度ブレイクダウンで落とす構成。
      ようはホンヤクさんの言う通りブレイクダウンの発展があるわけでそのなかで俺のブレイクダウン解釈はこうだって話すよ。

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    5. なんかこの人自分の言葉に酔ってるね。多分ウィキとか読んで
      勉強した感ありありだね。
      無名アイドルに楽曲提供してるんだけど、
      実際は感覚的なものでいんとろ?ブレイクダウンとかAメロとか気にせず作ってるよ!プロがひけらかすように御託は言わないよ!
      だって、知ったかぶりするのって恥ずかしいから・・・

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    6. 無名アイドルに楽曲提供してるようなプロの方に言うのは失礼かと思いますが御託っていうぐらいの音楽理論は言ってないと思いますけどねぇ…。
      俺は音楽好きでメタルとかラウドロック系のギターやってるんですけどこういうの仲間と普通に喋りますよ。
      知ったかぶるっていうかそういうジャンル好きな奴と喋ると普通に出てくる言葉でウィキは読んでないですねぇ…。

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  10. 鬱陶しいからよそでやってくれ!

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  11. 洋楽と邦楽というか、英語圏の音楽と日本語の音楽で別けたほうがいいかも

    言葉自体のイントネーションがダイレクトにメロディーに反映してくるので、英語圏の音楽は英語圏独特の特徴がありますから

    日本の音楽が何の違和感もなく翻訳されて歌えるのは日本語と同じ語尾に母音がくるスペイン語(イタリアやポルトガルとか兄弟言語も)とかだと思います
    よくアニメのOPテーマをスペイン語で歌ってる人たちがいますが、日本の歌なのに外国語で歌っても超自然なため、日本人からすると不思議でエキゾチックでかっこいいです
    それに対して日本の歌を英語訳で歌ってるのはやはり少しあってないときがあります

    三代目も日本語で歌ってるので母音のアクセントでリズムとってますが、それに対しBLACK DIAMONDにサビは英語の歌詞にあったメロディーです

    でKARATEは「ひたすらセイヤソイヤ戦うんだ」、からは工夫しないと英語に乗せにくいですが、そこまでの「涙こぼれても~」の部分は完全にエヴァネッセンスのBring Me To Lifeの最初の歌詞を当てはめても何の違和感もありません
    KARATEは出だしが英語圏の人のイントネーションの感覚のままメロディーになってるということだと思います

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