2016年3月2日水曜日

【Metal Hammer】Metal Hammer281号 "RESISTANCE IS FUTILE" 前編

非常に長いテキストの為、前中後編に分けて投稿します。
中編 後編
原文はWEB上ではこちらにあり、FacebookまたはGoogle+アカウントがあれば登録不要で全文を読む事が可能です。またiOS/Android用に提供されているMetal Hammerアプリから電子書籍版が480円で購入可能です。


RESISTANCE IS FUTILE (抵抗は無駄だ): 前編

物珍しさを超え、現象以上に。我々は日本へ上陸しBABYMETALによる世界征服の加速度を知る。


「いまBABYMETALの力を 理解できました」
この儀式の規模がSu-metalの理解を促している


横浜アリーナの廊下に並ぶ額に入れられたツアーポスター達が、その歴史に名高い過去を証明している。
その17,000人のキャパシティを誇るコンサートホールは、東京の著名な武道館のような文化的名声を持ち合わせてはいないかもしれないが、国内で独自の地位を獲得している: ローリングストーンズ、The Who、AC/DC、クイーン、Kissがそのステージを飾り、先駆的なジャパニーズメタルの象徴であるX Japanも会場のヘッドライナーとなり — ニューヨークの伝説的なマディソンスクエアガーデンを模範としている — そして2001年8月26日、Slayerとの共同ヘッドライナーとしてPANTERAが彼らの最後となるライブを、日本初の終日を通したメタルフェスティバルBeast Feastにて行った場所もここなのだ。

2013年のある日、今や世界中に広くBABYMETALのメンバーSu-metal、Yuimetal、Moametalとしてより知られている中元すず 香、水野由結、菊池最愛は、彼女達の指導者である小林”Kobametal”啓に、このアリーナへとJ-POPのコンサートの為に連れて来られた。いつの日か彼女達のグループがこのステージに立ち、熱狂的なファン達が彼女達の曲を彼女達に向かって歌い上げる事になると約束したのだ。その十代の3 人は、彼女達のプロデューサーの未来へ向けたビジョンに熱心に耳を傾けながらも、そんな不可能におもえる夢がどうやって実現するというのだろうと、各々に密かに訝しんでいた。

2年が経ち、その予言は現実となっている。クリスマス2週前の週末、そのトリオは純真な音楽ファンとしてではなく、二夜連続の主演者として横浜アリーナに帰ってきたのだ。12月12日の夕方早くには、数千のファンが軽い午後の雨の中、我慢強く並んでおり、会場を取り囲む多数の物販ボードには「Sold Out」のステッカーがベタベタと貼られている。開演を何時間も前にして、そこにはすでにパーティーの趣がある。ライクラ*1製のスケルトンボディスーツを着た男が、小さなBABYMETALドッペルゲンガー達の横でポーズを決めて写真に写る一方、十代の女の子達ははしゃいだ様子で、友人だけでなく他人にも同様に黒と白のフェイスペイントを施している。ただ単なるライブである以上に、これはある種の「イベント」のようだ。

横浜でのライブはBABYMETALにとって「トリロジー最終章」と掲げられ、国内において大変に重要であった一年を締めくくるものだ。その1年で彼女達はさいたまスーパーアリーナ(キャパシティ: 30,000)と幕張メッセ(キャパシティ: 25,000)で単独ライブを開催した。
統計調査会社であるオリコンの収集した数値によれば、トリオはその母国で47,241枚のセルフタイトルアルバムを2015年に売り上げ、そこにLIVE AT BUDOKAN ~RED NIGHT & BLACK NIGHT APOCALYPSE~とLIVE IN LONDON -BABYMETAL WORLD TOUR 2014-による26,667枚のDVDと52,240枚のBlu-Rayという驚くべき数字が加えられる。BABYMETALにとっての日本国外最大のマーケットであるイギリスでは、バンドの次なる単独ライブが4月2日、12,500人のキャパシティのSSEアリーナ・ウェンブリーで開催される。このような大いなる統計は音楽業界を超える波紋を起こす事となる: 影響力の大きな日本の雑誌である日経ビジネスは先ごろ「次代を創る100人」の記事でこのグループを取り上げ、「彼女達はアイドルではない: 彼女達は一流のアーティストだ。」と記した。

トリオによるここ横浜での週末において、最も興味をそそる側面とは、このショーが日本人トリオを地球上最も話題にのぼった新しいバンドへと押し上げた2年間のキャンペーンの功績たるビクトリーラップとして用意された単なる祝賀会ではなく、思わせぶりに垣間見せるBABYMETALの未来を提供するという事だ。

両夜共に馴染み深い様式ではじまる。Kobametal個人のプレイリスト — Bring Me The HorizonのThrone、Judas Priest のPainkiller、そしてPanteraのCowboys From Hellなど— が、観客達が上品にそれぞれのシートや「HAPPY MOSH’SH PIT」のプラカードが印された指定のスタンディングエリアへと入場する最中、アリーナに鳴り響く。Metal Hammerが1月、BABYMETALのさいたまスーパーアリーナでのショーに参加した際、私たちの編集者Stephen Hillは、このグループの母国での核となる観客は未だポップスファンによって大部分が形成されている事を観測している。それは「アイドル」グループさくら学院の分家であるという起源の残存だが、この素晴らしいサウンドトラックに合わせて熱を帯びた合唱が起こり、空へと手が挙げられている事が、この東京を基盤としたバンドがオールドスクールなメタルヘッズを更に取り込んでいるか、もしくは彼女達の観客が — トリオ 自身と同様に — 我々の世界へと急速に同化してきている事を示している。

Su-Metal、Yuimetal、Moametalが、閃光する爆破の弾幕、炎、一斉掃射されるレーザーの最中、「狐の神」のサインを掲げ登場すると、かん高い音による地獄のような騒音が噴出する。

純粋なエンターテイメントに捧げられたその95分間の時間は、どこか他所で見られるものとは全く異なるものだ。まばゆいステージは歴史の反映を含み — ある一定の年代のメタルヘッズならIron MaidenのWorld Slaveryツアー*2の設営の面影をスロープとランウェイ上にそびえるスフィンクススタイルの狐の神から見抜くだろうし、そこではRammstein*3と肩を並べる 激しさと火薬量のパイロテクニックも使われている — 並列に並んだトリオの大いに快活な振り付けと、Kami Bandによる口をあんぐりとさせる技巧は、愉快で独創的な催眠術である。その二夜のセットリストには変更が施されていた。 — 土曜日の観客は紅月とYuimetalとMoametalの曲、4の歌をセット中盤に聴き、日曜日には悪夢の輪舞曲と、馬鹿げた程に伝染性の高いおねだり大作戦が代わりに演奏された — だがエネルギーのレベルはレッドゾーンから落ちる事は決してなく、観客はライブを通して彼女達のダンスをコピーし、観客自身がライブにとって不可欠な要素へとなる。ギミチョコとヘドバンギャーではアリーナフロア上でサークルピットが渦を巻く様を眺める事でも喜ばせてくれ、Ozzy Osbourne、James Hetfield*4、Corey Taylor*5やその他多くを侍として描写したアニメーションフィルムがDragonforceの手によるRoad of Resistanceの前に流れる事も悪趣味な笑いを提供してくれる。

来たるアルバム「メアルレジスタンス」収録に選ばれたBABYMETALの真新しい産物の初公開がその夜に最も興味をそそる瞬間となった。合わせて三曲の新曲が演奏される。疾走感があり、未来における観客のお気に入りとなる事が必然のKARATEは概してアップビートなジャンルをマッシュアップする曲で、感情に満ちたパワーバラード*6的な曲は仮にThe Oneと名付けられ (だがプロダクションノート上では La La Laと記されていた) — Su-metalの素晴らしく美しいボーカルを披露するもので、疑う余地もなく必ずやこの先幾年もの間BABYMETALのライブにおけるドラマティックな中心点となる楽曲だ。土曜の夜のライブのオープニングとなり、日曜日にはセットの最後へと移され、3名の女の子達がそのアンセミックなサビ — 「We are The One.  Together we’re the only one…」をスポットライトで照らされる赤熱したピラミッド型の「ゴンドラ」の上から届け、そのピラミッドはステージからアリーナへ向かい、今や狂乱状態の観客の頭上20フィートをゆっくりと滑空する。それは魅惑的なショーを締めくくる息を飲む劇的なクライマックスであり、そこにいた全ての人々の記憶の中、長く生き続けるスペクタクルであった。

けれども、その夜はそれでまだ終わりではない。Kobametalはさらに二つの初公開となるサプライズを用意していた。ステージ側面にあるビデオスクリーンが、今や公式に「FOX DAY」と銘打たれる4月1日 — ウェンブリーでのライブ前夜 — にメタルレジスタンスが発売されるというニュースを届ける為に今一度明滅する。二つ目の啓示は明らかに彼女達をも驚かせるものであり、観客が息を飲む音が聴こえ、BABYMETALの2016年ワールドツアーが55,000人のキャパシティを誇る東京ドームでの単独ライブにて締めくくられる事が発表されたのだ。BABYMETALはただの一時の流行で、既にメタルの残忍かつ荒唐無稽な歴史上の愉快な小事件の一つだったなんて考えているのか?その偏見は見直すべきだな…

(続く)


訳者注釈

*1 ライクラ
ポリウレタン製のストレッチ素材の登録商標

*2 Iron MaidenのWorld Slaveryツアー

Iron Maidenのキャラクター「エディ」がスフィンクスに扮したステージセットが組み上げられたツアー。

*3 Rammstein

ドイツのインダストリアルメタルバンド。
過剰なまでにパイロを多用したステージ演出で名を馳せる。

*4 James Hetfield
Metallicaのボーカリスト兼ギタリスト

*5 Corey Taylor
Slipknotのボーカリスト

*6 パワーバラード
80〜90年代に流行したHR/HMバンドによる壮大なバラード。
Metal Hammer全曲ミニレビューでNo Rain No Rainbowの欄であげられていたGuns N' RosesのNovember Rain等が含まれる。失恋について歌った曲が多い。

3 件のコメント:

  1. いや~ザ・ライブレポートって感じDEATHね。
    バーンをウキウキしながら読んでいた頃を思い出しましたDEATH!
    またいろんな翻訳、よろしくお願いします。

    返信削除
  2. ホンヤクメタル様、復活されたと思ったらここのところ怒涛の翻訳が続いていますね。毎回拝みながら読まさせて頂いております、感謝です。

    返信削除
  3. 翻訳ありがとうございます。非常に楽しく見させていただきました!!

    返信削除