2016年3月24日木曜日

【THE LIST】メタルレジスタンスレビュー

1985年に創刊されたイギリスのアート・エンターテイメント全般を取り上げる雑誌「THE LIST」によるレビューです。

BABYMETAL - メタルレジスタンス

長年のメタルで起こった最も興味深くエキサイティングなもの

Matt Evans著

BABYMETALほど決定的にメタルコミュニティに亀裂を生じさせたバンドを数少ない。一方、マチズモ伝統主義者達はその日本人によるセンセーションを、作り上げられたポップグループがメタルの装いをしていると(あたかもその事が当然に悪であるかのように)非難した。また一方でまっとうな考えをもった人間はBABYMETALを長年のメタルで起こった最も興味深くエキサイティングなものと認識した。

メタルが真正性に優劣をつける事は、その強さでもありまた弱さでもある。その事は信奉者達を何かしらリアルで本物で根元的なものと繋がっている気持ちにさせるが、その過程において、そのもの自体を真剣に捉えすぎ、高く組み上げられた遂行的側面を否定しかねない危険性をはらむ。したがって 超Kawaiiアイドルポップで薬漬けにされた残酷な暴力性を注入する事は、メタルのカルト的伝承という自己イメージへ極端な対立姿勢で挑戦する事となり、結果その事は衝撃的に効果をあげた。

彼女達のセルフタイトルアルバムとは、両立しないと見受けられるスタイルとエネルギーの並外れた衝突を、言語に絶する奇妙にも美しいキメラへと変えさせたものだ。メタルレジスタンスもまた同じく、めくるめく暴力的メタルのスタイルが誇らしげにきらめくポップスを表現し、超高速を付与されたアンセム「Road of Resistance」(DragonForceからのゲストによる速弾きを伴う)、「KARATE」の汚らわきジェント、「Sis Anger」の残虐なるテクデスメタル、そして正気ではない「Tales of the Destinies」のほぼCardiacs*1的なごた混ぜの歪み。鉄拳リフの猛攻撃ときらびやかなフック、ラスティ・ネイル*2とMoshi Monsters*3が無神経に詰め込まれている。壮観だ。

さりながらデビュー盤ほどに陶酔させるものではない — より洗練され熟達したジャンルの融合か、リスナーの中にある流行性の欠落によるものなのだろうか。その事はこのアルバムをきまりの悪い立ち位置へと置くことになる。多くの意味において、それはより力強く、より自信に満ち、ファーストアルバムより良く実現化されているが、その代償として — すなわちデビュー盤をあれ程に驚くべきものとしていた信じがたさと矛盾を多少和らげているのだ。良かれ悪しかれBABYMETALは「そこにいるべきではないもの」から「間違いなくアリーナにいてしかるべきもの」へと変わったのだ。

訳者注釈:
*1 Cardiacs

70年代から活動するイギリスのロックバンド。
「プログレッシブパンク」とも呼ばれるその特異かつ奇抜な音楽性によって、ジャンルを超え世界中のバンドに影響を与えた。
多数の作品を残しているが、メンバーが病に伏せた事により2008年から活動を休止している。

*2 ラスティ・ネイル
カクテルの名前

*3 Moshi Monsters

オンライン上のバーチャルペットからはじまり、家庭用ゲーム機にまで展開した子供向けキャラクター。

ソース: THE LIST

4 件のコメント:

  1. このレビュアーがメタルを俯瞰的に観ている当事者ではない人だということが
    すぐに分かる文章ですが、1st に較べてちょっと落ちるという感覚は分かる気
    がします。1st 発表までの実験的な試行錯誤に較べれば、今作に含まれている
    曲はその制作段階でいろんなジャンルを融合する為のノウハウとメソッドが
    かなり確立されていることによるちょっとしたチグハグな猥雑さが減っている
    ということでしょう。それは曲として整合性がうまくとれているということで
    もあるので、今後も洗練されていく方向に進むでしょう。
    それ故にライヴでKAMI BAND にはその猥雑性を加味して補って欲しいと思うの
    ですが、その為には前田神(最近は参加してないですが、)や大神さまがもって
    いるアーティストゆえのゴリッとしたエゴみたいなものをもっと前面に出した
    プレイでグルーヴと猥雑さを表現してもらった方がいいのかなとも思います。

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  2. 深いっすね。特に英国に、嫉妬さえ含めて感じるのが、彼らの『批評文化』もしくは『批評癖』とも言えるレベルの高い客観「表現」です。車のサイトやウイスキーのサイトなどが典型的かもしれません。評価方法自体に『掟』『マナー』があり、それが代々と継がれている感じ。そのカウンターとしての"TOPGEAR"のような奴もある(あった)。"その世界で糧を得てる人達も多いでしょうし、また、その掟の中で生まれてきたプロダクツや文化も数多あるのでしょう。

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  3. >言語に絶する奇妙にも美しいキメラ

    うまいな。部品は既成(生物・ジャンル)、
    全体では現実離れした奇妙さ・美しさを兼ね備える(生物・音楽)。
    ライブのすぅさんはほんとにキツネ降りてる感もあり。

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  4. メタル界隈だけでなく本当にいろんなところで取り上げられているのがすごいと言うかうれしいと言うかワクワクしてしまいます。

    メタル以外の音楽にも造詣の深い記者のレビューはいつもとは違う視点で書かれていて興味深いです。

    さまざまなレビューを読んで、ニューアルバムに何を期待すればいいのかがなんとなくわかってきました。ファーストアルバムのなんじゃこりゃ的な刺激を求めると肩透かしをくらいそうですね。
    もっと洗練と進化を遂げて成長したチームベビメタの姿を想像して心の準備をしておきます。

    Cardiacsというバンドは初めて知りましたが面白いですね。プログレだけど複雑でも難解でもなく楽しめるところが好きです。

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