2016年4月4日月曜日

【DAILY STAR】Wembley Arenaライブレビュー

42万を超える発行部数を誇るイギリスの新聞(タブロイド)「DAILY STAR」によるレビュー。

BABYMETAL: 十代のトリオ、カルトファンが集うロンドンWembleyに正気の沙汰ではないモッシュピットを引き起こす。

Nadia Mendoza著

babymetal
ホーンを掲げろ: BABYMETALが幾ばくか90年代のノスタルジーを呼び戻す

「でも彼女達は自分で曲は書いてないんでしょ?理解できないわぁぁぁ」昨夜、私たちがWembleyを去る頃、終演間際に到着した同僚は巻き上げたBABYMETALの試供品を手に愚痴をこぼしていた。

一方、私と他の友人達は対照的にアドレナリンが活気付いていて[そのせいで違う地下鉄に乗って1時間後に再びWembleyへと戻ってきた]、私たちがバンドの4番目か5番目のメンバーになるための陰謀を企てるほどだった。

BABYMETAL = 意見を明らかに二分するトリオ

昨夜のSSEアリーナの中では、この3人の小さなゴス人形が登場する前からカルト的崇拝者の熱気が高まっていた; 彼女達のようにドレスアップするファン達、既にキツネサインへと形作られた手[デビルホーンを洒落た彼女達のトレードマーク]、そして女の子達の登場で大規模な合唱 / 叫びへとすぐに変わっていくチャント。

その偽りの反乱、棺ポルノ、独特な熱狂、90年代的ノスタルジーによる魔法に私は魅了されていた。
babymetal
癖のある良質さ: メタルミュージックとポニーテール、好きになって当然でしょ?

ライブ翌朝にサッとググってみると、このように批評していたのは同僚の彼女だけではなかった。その3人によるスピードメタル、J-POPそしてアイドル — その名前が語るように、誰かをアイドル(訳注: 偶像)化し売り込むために作られたジャンル — の寄せ集めへの強い懐疑論。

女の子達を「自分たちで曲を書かない作り上げられたポップスグループ」であり「One Directionにギターが乗ったもの」以上ではなく、セールスポイントは「日本ヲタとロリコン向けのメタル」と軽くののしる意見だ。

公平を期するために言うと、Whitney Houston、Marvin Gaye*1、そしてElvis Presleyは自分たちの曲を書いていない。Kanye West*2にはゴーストライターがいる。それにLiam Gallagher*3でさえも彼の兄の言葉を歌っている。

日本ヲタでなく、ロリコンでもなく、たいていの作り上げられたポップスのファンでもない私にとって、BABYMETALはクソを漏らさせるほど熱狂させる存在だ。その天才的な歌詞以外においては。

(とは言え、Gimme Chocolateでは体重の増加を気にしながら甘味を切望する様を描いている。だから、もしかしたら…)

人間はなぜ踊りたいと思うのかというロジスティクスを解き明かす事が彼女達を過剰に分析する事になる。もしくはそのように見せかけているのか。彼女達は製品だ。ああ。だがSteven Spielbergの映画やJ・K・Rowling*4の本と同じく楽しむ事ができる。

ヘッドバンギングでカタルシス的清めを加えれれば、君の心配の種も消える。

Babymetal
正統: これは十代 のためだけのものではなく世界的現象だ

12,500人のキャパシティーの会場は幅広いグループのライブ参加者をを誇っていた; 十代、メタラー、パンクス、親に連れ添われた子供、女の子、男の子、女性、男性、Daily Starのジャーナリスト、私たちの横から立ち去ったカップル、おそらく教師、おそらく弁護士、おそらく医者、わかんないけど…

要するに雰囲気はフェスティバルのそれに近く、趣を同じくした人々が土曜の夜に飛び跳ねていて、フード付ジャケットの中でオナってる中年男性はいない。

彼女達の若さ — 一人は18歳で他の二人は16歳 — が当然ながら注目の的となるが、彼女達はロリータ美学以上にルールを破壊する者として存在している。

モッシュピット(アリーナの異なる場所で幾つか起こる)は私が見た中でも最もエクストリームなもので、ハードコアの伝説Rage Against The Machine、System Of A DownやSlipknotをやり込めかねないものだ。

今まさに完全に巻き込まれているファン達を見ずにBABYMETALを批評する事は軽薄な行動であり、それを理解できるかどうかや、ファン達の敬愛がバンドの一過性の流行によるものか真正である事からくるものかに関わらず、彼女達は現象であり、そこには心からの共感を呼ぶ何かがあるのだ。

Babymetal
牙のあるベイビー達: この表情を見くびっちゃいけない

その女の子達 — 中元すず香(SU-METAL)、水野由結(YUIMETAL)、菊地最愛(MOAMETAL) — は紛れもないプロであり、ワールドクラスであり、地球上あらゆるところからファンが集めた旗がふられる中、中毒性の高いメロディーを歌い、素晴らしい化学反応で激しい苦悩の背景に抗う。

パイロテクニックのスペクタクルがあり、ケープが輝き、暗黒卿の物語があり、実際に経験しなくては言葉では言いつくせないものがある。

それはS Club 7*5とMetallicaをミキサーにかけたようなものだ。だがそれよりもっと上質な。

彼女達の深さと福音の真理は、あなたを恋の終わりや失職から救い出してはくれないが、そのピットの中で悪魔祓いをする手助けをしてくれるはずだ

#babymetaltoheadlineglasto17
(訳注: BABYMETALをグラストンベリー2017のヘッドライナーに)


訳者注釈
*1 Marvin Gaye

R&Bの父とも呼ばれるアメリカを代表する歴史的シンガーの一人。

*2 Kanye West

アメリカのラッパー。
引用曲はKing Crimsonの「21世紀の精神異常者」をサンプリング。
ゴーストライターとして詞を提供したラッパーの存在を、元カノに暴露された。ただしメジャーなラッパーがゴーストライターを抱えている事が暴露されたり明らかになった例は他にもある。

*3 Liam Gallagher

元Oasisのボーカリスト。メンバーでもある(不仲で有名な)兄のNoel Gallagherが大半の曲を作詞作曲している。

*4 J・K・Rowling
「ハリーポッター」シリーズで知られる作家。

*5 S Club 7

イギリスの男女混成ポップスグループ。

ソース: DAILY STAR

16 件のコメント:

  1. 翻訳ありがとうございます。

    あんまり無理しないでくださいね。
    ……と言いつつ、次はThe Guardianかしら、
    などと楽しく憶測を巡らせる今日この頃w

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  2. 棺桶ポルノってどんなポルノ(笑)マニアック(笑)

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  3. どうしてこう捻った書き方するんだろ?
    真っ直ぐなBABYMETALは、真正面から書いて欲しい。

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    1. イギリスってどこかシニカルだから、記者の個性と国民性じゃないですかね
      外国語のレトリックって、修辞過多だったり変化球過ぎたりだし、記者の知的・文化的背景がにじみ出るから、日本人からするとピンとこなかったりしますが、修辞のされ方そのものより、何を言ってるかの方が重要なんで、そこだけ見るといいですよ
      色んな人がいますんで、その人なりの褒め方も面白いなと思います

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  4. 難解wなレビュー...
    でもBABYMETALファンの屈折した気持ちをこのように表現してしまうことには共感する...

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  5. いつも翻訳ありがとうございます
    ホイットニーとエルヴィスは曲を書いてないはずですが、マーヴィン・ゲイは曲を書いてますね
    ってか、ソングライターとしても有名なんだけど、この記者さんちょっと変です

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  6. ひねった書き方になるのは仕方ない。
    自分で作詞作曲しないというのはウィークポイントなんであって、よってBABYMETALが世界を征服していく過程でいずれ克服していくことだと思う。
    伝説的ロックバンド、カーペンターズは初期、自分たちで作曲するより、他人の曲を独自にアレンジすることを好み、最初のヒット曲はキャロル・キングの曲だった。
    天才的なアレンジャーの兄リチャードと無比の中低音を誇る天才シンガーの妹カレンの奇跡的な取り合わせが彼らを伝説にした。
    コバメタルとSu-Metalを見てると彼らを思い出す。
    同じような奇跡の出会いでBABYMETALは生まれたが、甘い音楽、しょせんPOPのプロダクツでしょと中傷されるところも似ている。
    しかしソニック・ユースのフォローを経て今ではカーペンターズはロックバンドとして認識されるようになっている。
    最近Su-Metalが中低音をものにするようになって来て、僕はカレンを思い出す。
    カリスマというと平凡だが、Su-Metalはその非凡な声だけでなく、カレンと同じくなにかシリアスなものを持っている。
    それがBABYMETALになにか異様な説得力を与えているんじゃないか。
    そう思ってるが、人のブログのコメ欄で長々と書いても迷惑なので自分のブログにでも書くよ(苦笑)


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  7. 英語圏のレビューのもったいぶった口調に違和感を持つ人は修辞学でググってみるといいかもしれない、英国はそっち方面の本家本元。
    これは手放しの絶賛以外の何物でもなくこれがメジャーな大衆紙のレビューであることに衝撃を受けた。
    日本の古参ファンはこれから起こることに備えるべきだと思う。

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    1. 初っぱなでちゃんと「ベビメタの4~5番目のメンバーになりたい」って思うくらいだと、自分の立ち位置を明確にして始めてるので、あとは、その文脈の上で語られていると予想しながら見れば良いんですよね
      細かな修辞の枝葉には、それほどとらわれなくていい
      とにかくこの記者はベビメタを気に入って、否定派の様々なロジックからベビメタを擁護しようとしている記事
      愛されたものですね、ありがたい

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  8. これってかなり誉めてますよね。だって比較対象がエルヴィスだからねw
    ほんとすごい。

    そして翻訳いつもありがとうございます。

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  9. 英国の大衆紙がこんなに褒めることがあるのかな
    ちょっと恐いくらい

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  10. BABYMETALをグラストンベリー2017のヘッドライナーにで吹いたw

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  11. 手放しで絶賛だね
    その後のはヘイター達に付き合って彼らの主張がいかに的外れかを自分たちの実体験から述べているのであってBABYMETALに関してひねくれた見方やうがった見方をしているわけではないよ
    完全に手放しに賞賛してくれてるね

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  12. 手放しで絶賛だね
    その後のはヘイター達に付き合って彼らの主張がいかに的外れかを自分たちの実体験から述べているのであってBABYMETALに関してひねくれた見方やうがった見方をしているわけではないよ
    完全に手放しに賞賛してくれてるね

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  13. しょっぱなから称賛してると思ったのでコメントにちょっと驚いたな。
    既成概念に縛られないで自分が良いと感じたものを、周囲の異なる反応と照らして率直に書いてるよね。ベビメタを擁護してるくらいで。地下鉄間違えるくらいハマったというレビューで自分的にとても面白かった。

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  14. このコメントは投稿者によって削除されました。

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